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見せてやれなかった景色

story

お前に見せたいものがある。

そう言って息子と二人で登山に出かけた。今までに多くの山を征服して来たがここだけは別格だ。頂上からの景色が桁違いに素晴らしい。

息子が出来たら果たしたい夢が二つあって一つは公園でキャッチボール。これは既に果たした。仕事が忙しくて未だ数回だけだが。そしてもう一つは今まさに実行するところだ。

最初は初めての登山に不安を見せていた息子も頂上が近づくにつれ表情が生き生きとしてきた。やっぱりお前は俺の息子だ。自分も大自然の圧倒的なスケールを目の当たりにすると大量にエンドルフィンが出るのかテンションが異様に高くなる。まだ大人になりきれていない体ながら早く頂上に辿り着きたいのか逸る気持ちが全身から伝わって来る。
「大丈夫か?」
「うん!ちょっと暑いけど疲れてないよ!」
汗を垂らしながら一歩一歩と力強く山頂へと踏みしめる。途中に湧き水が出ていたので休憩する。湧き水の異様な冷たさに歓声をあげる息子。久しぶりに男同士の休日だ。母さんには悪いけど男には男のロマンがあるからな、と言うとこれが男のロマンかーと独りで頷いていた。

休憩を終えて再び山頂を目指す。水分を補給しただけなのに登頂開始時より元気なようだ。そんなにはしゃいだら危ないだろw気をつけr











と思ったのも束の間。息子は崖下に転落した。何故か私に走馬灯のごとく記憶がフラッシュバックする。忙しさを理由にあまり構ってやれてなかったと思っていた割に息子との映像はいつまでも尽きなかった。どうしてこのタイミングこの場所で崩落するんだ。なんでなんだと大自然を呪いながらも体は冷静で気が付くとロープ片手に息子の傍に降り立った。

すると息子は立ち上がり「お父さん!涼しいよ!涼しくなったね!」とはしゃぎ出した。バカ!じっとしてろ!と抱きしめる。動くんじゃない。こんな事があってたまるか。見上げると他の登山者がこちらの崖下を覗き込んでいる。
「すいません・・・!誰か医療の心得のある方は・・・・!」
問いかける途中で哀しそうで怪訝な表情に気づく。もう一度息子を確認すると彼は立ち上がってなどおらず大きな岩の上で大の字になったまま事切れていた。